

この記事では、筆者自身が無資格で入社→4級・3級を筆記先行ルートで取得した経験をもとに、海技免状の取り方を解説します。
「どの学校に行くべきか」は学校比較の記事で、「未経験からの転職の全体像」は転職ガイドで詳しく書いているので、この記事では「免状をどう取るか」の手順と戦略に絞ります。
この記事でわかること
- 免状のあり・なしで何が変わるのか
- 6級→5級→4級→3級の全体像と必要な乗船履歴
- 「筆記先行」と「履歴先行」2つのルートの使い分け
- 一括公認(一括届出)を活用した最短ルート
- 筆記試験と口述試験の攻略ポイント
- 免状取得に必要な講習の一覧
- 筆者の実体験(筆記先行ルート)
※海技免状の受験資格・乗船履歴の計算方法は法改正で変更されることがあります。最新の情報は必ず地方運輸局に確認してください。
免状なし→ありで何が変わるか
まず「免状を取る意味」を理解しておきましょう。結論から言うと、免状のあり・なしで給料・待遇・選択肢が劇的に変わります。
免状がなければ「部員」として雑用中心の仕事しかできません。給料の上限も低く、会社も船も選べません。免状を取って「職員」になれば、航海当直を任され、船の運航に直接関わるようになります。給料は一気に上がり、転職先の選択肢も広がります。


筆者も無資格で1社目に入り、最初は「人間扱いされない」と感じることがありました。でも免状を取ってからは、会社との交渉力も変わり、転職の選択肢も一気に広がりました。免状は船員にとっての「交渉カード」です。
また、将来的に陸上職への転職を考える場合にも、海技免状は大きな武器になります。海難審判官、ドックマスター、船舶代理店の海務・工務、船舶検査官など、免状の級が高いほど陸上でのキャリアの選択肢が広がります。

海技免状の全体像──6級から1級まで
海技免状は6級から1級まであり、数字が小さいほど上位です。内航船員に必要なのは主に6級〜3級。2級以上は外航や大型フェリーで求められます。
それぞれの級で「何ができるか」と「取得に必要な乗船履歴の目安」を整理します。
免状の級と概要
6級海技士:内航船の職員としてのスタートライン。小型船の船長・機関長にもなれる。乗船履歴2年で受験可能(口述試験なし)
5級海技士:6級の上位。沿海区域の中型船で職員として乗れる。6級取得後、職員としての履歴で受験可能
4級海技士:内航の主力免状。乗船履歴3年で受験可能。筆記試験は履歴なしで先行受験できる
3級海技士:内航では最上位クラス。大型船の船長・機関長を目指すなら必要。筆記試験は履歴なしで先行受験できる
2級〜1級海技士:外航向け。大型フェリーや外航船社で求められる


ポイントは「6級で止まらないこと」です。6級だけでは選択肢が限られますし、会社側も「6級止まりの人」として扱いがちです。4級まで取れば転職市場での価値が大きく変わります。

2つのルート──「筆記先行」と「履歴先行」
海技免状を取るには「筆記試験」と「口述試験」の両方に合格し、かつ所定の「乗船履歴」が必要です。ここで重要なのが、5級・4級・3級は筆記試験だけなら乗船履歴がなくても受験できるという点です。
これを利用するのが「筆記先行ルート」です。
筆記先行ルートとは
乗船履歴が貯まる前に、休暇中などを利用して上位級の筆記試験に合格しておく方法です。筆記の合格証明は一定期間有効なので、その間に履歴を貯めて口述試験を受ければ免状が取得できます。
メリット:履歴が貯まった時点ですぐに免状が取れる。昇格のチャンスを逃さない。
デメリット:乗船しながらの勉強は体力的にきつい。入出港と荷役で忙しく、合間に寝なければならない環境での勉強は楽ではありません。


履歴先行ルートとは
まず乗船履歴を貯めてから、必要な級の筆記・口述をまとめて受験する方法です。6級はこのルート一択(筆記先行不可・口述試験なし)。
メリット:実務経験を積んでから受験するので、口述試験で実感を持って答えられる。
デメリット:履歴が貯まるまで免状が取れないので、その間は部員のまま。給料が上がるタイミングが遅れる。
筆者のおすすめ
筆者自身は筆記先行ルートで、6級を取る前に4級・3級の筆記を先に合格しました。休暇中にまとめて勉強し、乗船中はひたすら仕事に集中する──このメリハリが自分には合っていました。
「勉強したら即、乗船して求職登録した方がいい」という声もありますが、筆記合格の有無で求職登録後の会社の反応が劇的に変わります。電話がじゃんじゃんかかってくるようになったという声もあるほどです。

一括公認(一括届出)を活用する
免状取得を最短で進めるために知っておくべき制度が「一括公認(一括届出)」です。
通常、乗船履歴は「実際に船に乗った日数」で計算されます。しかし一括公認の会社では、会社の在籍期間がそのまま乗船履歴になります。つまり休暇中でも会社に在籍している限り、履歴が貯まり続けます。



フェリーや漁業取締船などは一括公認の会社が多い傾向があります。上級免状を早く取りたい人は、就職先を選ぶ際にこの制度があるかどうかを確認しておくと有利です。
ただし注意点もあります。一括公認は「どの船に何日乗ったかを会社がまとめて証明する」仕組みなので、会社側の協力が不可欠です。退職時に履歴証明を出してもらえない、といったトラブルを避けるためにも、円満な関係を保つことが重要です。
なお、制度の正式名称は「一括届出」に変更されており、インターネットからも手続きが可能です。詳細は運輸局に確認してください。

筆記試験の攻略──思ったより難しくない
海技士の筆記試験に対して「難しそう」というイメージを持っている方は多いですが、実態はそこまでハードルが高くありません。


つまり、数学力よりも暗記力が問われる試験です。過去問をひたすら回せば合格ラインに届きます。4級なら2〜3ヶ月、3級でも半年あれば独学で十分合格可能です。
受験時期の選び方
海技士の定期試験は年4回(4月・7月・10月・2月)行われます。受験時期によって難易度に若干の差があるという声があります。

ただし時期による難易度の差は公式なものではないので、あくまで参考程度にしてください。確実なのは「過去問を完璧にする」ことが最も効果的な対策だということです。
6級は筆記先行できない──ただし別ルートもある
ここで一つ注意点。6級海技士は筆記先行ができません。6級は口述試験がない代わりに、乗船履歴2年を満たさないと受験資格そのものが得られません。つまり6級だけは「履歴先行ルート」一択です。
ただし、5級以上の筆記試験にすでに合格している場合、6級を口述試験ルートで取得できるという話もあります。制度の詳細は時期によって変わる可能性があるので、必ず運輸局に確認してください。
いずれにせよ、5級以上は筆記試験を先に受けることができます。入社直後から上位級の筆記に取りかかるのが最短ルートの鍵です。
口述試験の実態──「世間話」のようなもの?
筆記に合格した後は口述試験です。口述試験は面接形式で、試験官と1対1で質問に答えます。


つまり、試験官は受験者のバックグラウンドを見て質問のレベルを調整しています。叩き上げ(実務経験で受験している人)に練習船の知識を問うようなことは基本的にありません。
ただし、不愉快な経験をした人もいます。

こうしたケースは例外的ですが、内定先の会社名を聞かれても具体的に答えない方が無難だという声もあります。「まだ決まっていません」とかわすのも一つの手です。
口述試験のポイントは「知識を暗唱すること」ではなく、「この人に船を任せて大丈夫か」を試験官に感じてもらうことです。実務経験があれば、それを自信を持って伝えましょう。

免状取得に必要な講習一覧
海技免状を取得する際、筆記・口述に加えて所定の講習を修了している必要があります。代表的なものを整理します。
主な必要講習
レーダー観測者講習:レーダーの基本操作。多くの免状で必要
レーダーARPA講習:ARPAの操作と解析。上級免状で必要
救命講習:救命設備の取り扱い
消火講習:船内消火の基本
ECDIS講習:電子海図表示システムの操作。ECDIS搭載船に乗る場合に必要
講習は免状取得の「前提条件」になっているものが多いので、乗船履歴が貯まる前に受けておくのがおすすめです。履歴が貯まってから「講習を受けていないから免状が取れない」となるのはもったいない。
ECDIS講習については、2017年以降は講習受講が必須となっています。ジェネリック(一般操作)とタイプスペシフィック(メーカー別操作)の2種類があり、費用は5日間で約19万円程度です。フルノ製であればWeb教材+テストで修了できるCBT方式も導入されています。
講習のスケジュールや費用は変更されることがあるので、最新情報はJMETS(海技教育機構)や海技大学校のサイトで確認してください。

筆者の実体験──筆記先行ルートで4級筆記→3級筆記→6級実免
筆者は無資格で内航船会社に入社し、甲板員からスタートしました。ここでは、実際にどうやって免状を取っていったかを紹介します。
乗船しながら筆記を先に取る(入社〜)
筆者がやったのは、履歴が貯まるのを待たずに、先に上位級の筆記試験を片付けていくという方法です。
甲板員として乗船しながら、休暇中を使って4級の筆記試験を受験・合格。続けて3級の筆記にも合格しました。つまり6級の実免を取る前の段階で、すでに3級の筆記合格証を手元に持っている状態を作りました。
6級の実免取得
乗船履歴が2年分貯まった時点で6級海技士を取得。筆者の場合は通常の履歴ルート(口述なし)で取りましたが、5級以上の筆記に合格していれば、6級を口述試験ルートで取得できるという方法もあるようです。この辺りは制度が複雑なので、必ず運輸局に確認してください。
4級・3級の実免取得
6級を取得した後は、すでに筆記は合格済みなので、あとは履歴が貯まり次第、口述を受けるだけ。4級→3級とスムーズに実免を取得できました。
筆記先行のメリットは「履歴が貯まった瞬間に免状が手に入る」こと。タイミングを逃さずに昇格できたのは、このルートのおかげです。
振り返って思うこと
乗船しながらの勉強は正直きつかったです。特にタンカーの忙しい航海中は、勉強時間の確保が最大の課題でした。でも「免状を取れば生活が変わる」というモチベーションがあったので続けられました。
3社を経験して痛感したのは、「免状があるだけで会社との交渉力が全く違う」ということ。給料交渉も、転職も、免状がなければ始まりません。

免状取得のロードマップ
最後に、未経験から免状を取得していく全体の流れを整理します。
未経験からの免状取得ロードマップ
STEP 1:無資格で入社。甲板員(or 機関員)として乗船開始
STEP 2:乗船しながら、休暇中に4級・3級の筆記試験を先行受験
STEP 3:必要な講習(レーダー・救命・消火)を休暇中に受けておく
STEP 4:乗船履歴2年で6級海技士を取得
STEP 5:筆記は合格済みなので、履歴が貯まり次第4級の口述→4級取得
STEP 6:同じ要領で3級の口述→3級取得
STEP 7:3級まで取れば、内航では船長・機関長を目指せるレベル
※乗船履歴の計算方法は職種(甲板/機関)、船の大きさ、一括公認の有無などで変わります。上記は一般的な目安であり、正確な履歴計算は必ず地方運輸局に確認してください。
→ 有料note「未経験→3社転職して分かった内航船員のリアル」
まとめ
この記事のポイント
免状のあり・なしで変わること
・免状なし=部員。給料の上限が低く、会社も船も選べない
・免状あり=職員。給料UP、選択肢拡大、転職市場での価値が跳ね上がる
・将来の陸上転職にも免状の級が直結する
取得ルートの選び方
・6級は「履歴先行」一択(口述なし、乗船履歴2年)
・5級以上は「筆記先行」がおすすめ。履歴が貯まった瞬間に免状が取れる
・一括公認の会社なら休暇中も履歴が貯まる。就活時に要確認
試験対策
・筆記は暗記中心。過去問を繰り返せば独学でも合格可能
・口述は「世間話」感覚。実務経験があれば自信を持って臨む
・講習は早めにスケジュールを押さえる。履歴が貯まってからでは遅い
最短ロードマップ
・無資格入社→乗船しながら4級・3級の筆記を先行→2年で6級→口述で4級→3級と積み上げ
・「6級で止まらない」ことが最も重要
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