

この記事では、筆者自身が3社の内航船会社で退職・転職を経験した立場から、船員特有の退職手順を解説します。
陸の会社とは法律もルールも違うのが船の世界。「辞めたいのに辞められない」と悩んでいる方は、この記事で全体像を掴んでから動き出してください。
この記事でわかること
- 辞めるべきか残るべきかの判断基準
- 船員法の退職ルール(陸とは全然違う)
- 損しない退職タイミング
- 退職の伝え方と注意点
- 辞めさせてくれない場合の対処法
- 退職後の書類トラブルへの備え
辞めるべきか、残るべきか──まず冷静に判断する
退職の手順を解説する前に、「本当に辞めるべきか」を一度立ち止まって考えてほしいというのが、3社を経験した筆者の正直な気持ちです。
内航業界で「人間関係が良い船」に当たるのは、はっきり言って奇跡に近い。乗組員が全員まともで、ストレスなく働ける環境は、転職を繰り返しても簡単には見つかりません。
もし今の船の人間関係に大きな不満がなく、「なんとなくやる気が出ない」「違う船種に乗ってみたい」程度の理由であれば、転職は慎重に考えるべきです。転職するたびに人間関係が悪化していく──そんな負のスパイラルに陥る人を、筆者は何人も見てきました。
辞めるべきケース
- 暴力・いじめ・パワハラが常態化している → パワハラ対処法の記事も参照
- 乗船延長が繰り返され、約束の休暇が取れない
- 給料の未払い・旅費の不払いなど法令違反がある → ブラック会社の見分け方も参照
- 船員手帳や免状を預けさせられている
踏みとどまったほうがいいケース
- 人間関係は良好だが「飽きた」「やる気が出ない」
- 休暇と給料に大きな不満がない
- 免状取得の途中(キャリアステップ論で判断)
特に免状取得の途中で辞めるのはもったいない。目安として、乗船歴に応じた段階的な判断をおすすめします。
辞めたくなった時の目安
- 乗船3ヶ月未満:まだ早い。まず3ヶ月続けてみる
- 乗船6ヶ月:当直部員を目指す。少しは良い船に乗れるようになる
- 乗船1年:雇用保険の対象になる。もう1年頑張って6級を取る
- 6級取得:さらに1年。3〜4級を取れば選択肢が一気に広がる
- 3級取得:ここまで来たら条件に不満があれば転職を検討してOK
休暇と給料に納得できるなら、絶対に辞めないほうがいい


嘘をついて辞めても後々後悔するから


船員法の退職ルール──陸の常識は通用しない
退職を決意したら、まず知っておくべきは「船員の退職は一般の労働基準法とは別の法律で動く」という事実です。
陸の会社員は民法627条により「退職届を出してから2週間で退職できる」とされています。しかし船員は船員法が適用されるため、ルールが全く違います。
船員法42条(退職のルール)
期間の定めのない雇入契約は、船舶所有者又は船員が24時間以上の期間を定めて書面で解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に終了する。(船員法第42条)
つまり法律上は、書面で通知してから24時間後には雇入契約が終了するのです。陸の2週間前よりはるかに短い。これは「船員の流動性を確保するため」の規定で、船員にとって非常に強い法的武器になります。
ただし、法律上OKだからといって、いきなり24時間前に退職届を叩きつけるのは現実的ではありません。業界は狭く、悪い評判は驚くほど早く広がります。
だいたい1ヶ月前だ

実務上のベストは、会社の就業規則で定められた期間(通常1ヶ月前)に従って退職の意思を伝えることです。ただし、会社が退職を妨害してくるような場合は、船員法42条の「24時間ルール」を知っているだけで立場が全く変わります(セクション5で詳しく解説)。
退職ルールの比較
| 適用法 | 最短期間 | 対象者 |
|---|---|---|
| 民法627条 | 2週間前 | 陸上の労働者 |
| 船員法42条 | 24時間前 | 期間の定めなし雇用の船員 |
| 会社の就業規則 | 通常1ヶ月前 | (法的拘束力は限定的) |
ベストな退職タイミング──ボーナスと雇止手当を逃さない
退職のタイミングひとつで、手元に残るお金は数十万円変わります。筆者の経験上、そして業界の共通認識としても、「ボーナスをもらった後の下船日」が退職のベストタイミングです。


あと一か月の辛抱だろ

さらに見落としがちなのが「雇止手当」の存在です。
たとえば年間100日の休暇が約束されているのに、実際は60日しか取れていなかった場合、未消化の休暇に対して手当を請求できる可能性があります。根拠は船員法41条2項と46条2項です。
退職前にやるべきこと
- ボーナスの支給月を確認する
- 自分の休暇消化日数を計算する(約束 vs 実際)
- 運輸局で求職登録をする(無料)ついでに、雇止手当について相談する
運輸局での求職登録は無料で、退職前でも可能です。登録ついでに休暇の未消化分について相談すれば、自分にどんな権利があるかを教えてもらえます。
退職の伝え方──誰に・いつ・どう言うか
退職の意思を伝えるタイミングと相手選びは、船員にとって最も神経を使うポイントです。乗船中に辞める意思を漏らすのは、絶対に避けてください。
船の上は閉鎖空間です。退職の意思が船内に広まれば、残りの乗船期間中ずっと気まずい空気の中で過ごすことになります。最悪の場合、船の全員を敵に回すような状況になりかねません。
退職を伝える鉄則
- 乗船中は黙っておく──船内の誰にも言わない
- 休暇で下船してから会社(配船担当 or 上司)に連絡する
- 退職届は書面で提出する(船員法42条の要件)
船長に直接言える様ならそこ迄イジメられて無いと思うし、乗船中に辞める意思を伝えるのは船の全員を敵に回す様なもんだから乗ってる間は外部には伝え無い方が良いと思いますよ。

配船担当に相談する場合のリスク
もし転職活動と乗船スケジュールの調整が必要な場合、配船担当者に相談するという選択肢もあります。うまくいけば乗船日を後ろ倒しにしてもらい、内定が出れば辞め、出なければそのまま乗り続ける──という理想的な展開もあり得ます。
ただし、この方法には明確なリスクがあります。
配船担当に相談するリスク
- 口が軽い担当者だと、転職希望が船内に漏れる
- 残留した場合、ボーナスの査定が下がる可能性
- 中小企業では配船担当がボーナスの匙加減を握っていることが多い
配船担当者との信頼関係が十分にできている場合のみ、慎重に相談しましょう。そうでなければ、黙って最終面接を受け、内定が出てから退職を伝えるのが最もリスクの低い方法です。
辞める理由の伝え方
辞める理由は正直に伝えるのが基本ですが、角を立てたくなければ「期日指定の理由」をオプションで用意しておくと便利です。
退職理由のオプション
- 正直路線:「違う船種に乗りたい」「キャリアアップのため」──嘘をつくより後々楽
- 角を立てない路線:「親の介護」「家庭の事情」──誰も反論できない理由として最も強い
- 避けるべき:会社や船内の悪口──業界は狭い。必ず本人に伝わる
そうすると、「人手不足」を回避出来る。
冠婚葬祭系かあとは親族を危篤にする。

誰も反論できない理由だからなw


なお、社内で相談する相手を間違えると、辞めるつもりの噂が広まって居心地が悪くなるリスクがあります。誰に話すか迷ったら、まずは社外の第三者に相談するのが安全です。国交省の船員向け相談窓口(記事末尾にリンクあり)を活用するのも一つの方法です。
辞めさせてくれない場合の対処法
残念ながら、退職を申し出ても会社が素直に受理しないケースは内航業界で珍しくありません。
手帳・免状を返してくれない、旅費を出さないと言われた──こうしたブラック企業の妨害手口とその対処法は、ブラック船会社の見分け方の記事で詳しくまとめています。
ここでは、退職の手続き上もっとも多いトラブルである「退職届を受理してもらえない」ケースに絞って解説します。
退職届を受理しない
「人手不足だから辞められては困る」と言われ、退職届を受け取ってもらえないケース。精神的にはきついですが、法的には問題ありません。
船員法42条の要件は「書面で解除の申入をする」ことだけです。会社が「受理した」かどうかは関係ありません。書面を提出した事実があれば、24時間後に雇入契約は法律上終了します。
退職届を受理してもらえない場合
- 退職届を内容証明郵便で送付する(提出の事実が証拠として残る)
- 地方運輸局の船員労政課に相談する
- それでも解決しない場合は、国交省の船員向け相談窓口を利用する

退職後のトラブル対処──離職票・源泉徴収票が届かない場合
無事に退職できたとしても、安心するのはまだ早い。零細企業や旧来の漁船系の会社では、離職票や源泉徴収票を送ってこないケースが実際にあります。
離職票がなければ雇用保険(失業保険)の手続きができず、源泉徴収票がなければ確定申告に支障が出ます。どちらも放置していい問題ではありません。
って事は、申告に支障を来すワケです。
海運局でも税務署でも伝えてください。

私の会社は船員労政課とハローワークと税務署を巻き込んで事がでかくなってようやく出してきたんだけど、金額が1行たりとも合ってなかった

当然、離職票なんか送らない。

書類が届かない場合の対処フロー
- まず会社に催促(電話 or 書面)──着信拒否される場合もある
- 離職票が届かない→ ハローワーク+地方運輸局の船員労政課に連絡
- 源泉徴収票が届かない→ 税務署に連絡(会社に発行指導が入る)
- 届いた書類の金額が間違っている→ 必ず確認。合っていなければ再発行を求める

退職後の次のステップ──求職活動の始め方
退職が完了したら、次の船会社を探す段階に入ります。ここでは最初にやるべきアクションを整理します。
運輸局の求職登録(無料・ノーリスク)
地方運輸局に求職登録すると、登録情報を見た船会社からスカウトが来ることがあります。登録は無料で、在職中でも可能。退職を決意した段階で早めに登録しておくのがおすすめです。
免状なしでも登録できますし、実際に連絡が来た実例もあります。ただし、海のハローワーク経由の求人にはブラック企業が混じっている可能性もあるので、求人の見極めは慎重に行いましょう(→ブラック会社の見分け方で詳しく解説予定)。
国交省の船員向け相談窓口
退職トラブルや待遇の相談だけでなく、キャリアの相談にも対応してもらえます。外部の第三者に相談するのは、社内で相談するよりも客観的で失敗が少ない方法です。
退職後の在籍確認──業界の横の繋がりを意識する
転職先の会社が、前の会社に在籍確認の連絡を入れることは実際にあります。ただし、普通に退職していれば心配する必要はありません。
調査が来ても「特に問題はなかったですよ、うちには縁がなかっただけで」とか
当たり障りない返事してる
履歴書見て、半月とかでころころ船会社変わってたり
手帳の雇止めが無いってのは注意対象だね

一方で、脱船・暴力・窃盗などの問題を起こした場合は、情報が業界内に瞬時に広がります。内航業界は想像以上に狭い世界です。どの会社を辞めるときも、きれいな辞め方を心がけましょう。
また、最近はSNSのチェックを行う会社も増えています。FacebookやXで不用意な発言をしていないか、転職活動中は特に注意してください。


まとめ
この記事のポイント
- 辞める前に「本当に辞めるべきか」を冷静に判断する(人間関係が良い船は希少)
- 船員法42条:書面で通知すれば24時間で退職できる(陸の2週間より短い)
- 退職のベストタイミングは「ボーナス後の下船日」
- 退職の意思は「下船してから」伝える。乗船中は絶対に言わない
- 退職届を受理しなくても、書面で通知すれば法律上は24時間で退職完了
- ブラック企業の妨害手口(手帳預け・旅費不払い等)は見分け方の記事を参照
- 離職票・源泉徴収票が届かなければハローワーク・税務署に連絡
- 国交省の船員向け相談窓口は無料で使える
筆者のnote有料記事では、3社の転職経験をもとに「次の会社選びで絶対に確認すべきポイント」「面接で聞くべき質問リスト」「船種別の給料・休暇の実態」を全て公開しています。退職後の行動で差がつきます。
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