この記事はこんな方におすすめ
- 「船乗りって普段どんな生活してるの?」
- 「航海中と港にいるときで何が違うの?」
- 「船の種類によって忙しさは変わる?」
※この記事は筆者の内航船3社勤務経験、および掲示板・業界関係者からの情報をもとに構成しています。内航船の例が中心のため、外航船や大型船はスケジュール・乗組員数が異なる場合があります。
船乗りの1日は「航海中」と「停泊中」でまったく違う





船乗りの1日を語るとき、「航海中」と「停泊中」を分けて考えないと実態がまったく見えてきません。
航海中は当直(ワッチ)を中心とした規則的な生活、停泊中は荷役や整備で不規則に動く生活です。
さらに言えば、船の種類(タンカー・カーゴ・コンテナ・フェリー等)によっても1日の過ごし方はまったく違います。
この記事では、筆者の3社5年の経験と、掲示板・業界関係者の声をもとに、船乗りの1日を部門別・船種別に紹介します。
航海中の1日
ワッチ(当直)とは
船は24時間動き続けます。そのため乗組員が交代で船橋(ブリッジ)に立ち、航路の監視・操船・他船との見張りを行う仕組みをワッチ(当直)と呼びます。
内航船で一般的なのは「4時間当直→8時間休息」の3直制です。
0-4時と12-16時を担当する「ゼロヨン」、4-8時と16-20時の「ヨンパー」、8-12時と20-24時の「パーゼロ」という3つのシフトに分かれます。
小さい船(499t以下など)では乗組員が少ないため、2直制(6時間交代や12時間交代)になることもあります。
0-4、4-8、8-12で生活はかなり違う
「3直制」と一言でいっても、どのワッチに入るかで生活のしんどさはかなり変わります。筆者は3社で3つとも経験していますが、体感は別物でした。
0-4ワッチは、深夜0時から4時と昼12時から16時の当直です。一番きついのは眠気との戦いです。深夜に一度起きるので睡眠が分断されやすく、慣れるまでは日中もぼんやりする感覚が抜けません。
4-8ワッチは、朝4時から8時と夕方16時から20時の当直です。朝は早いですが、日中に自由時間を確保しやすいのがメリットです。ただし入港が日中に重なると、ワッチ明け→入港スタンバイ→荷役→出港スタンバイ→ワッチというコンボが決まりやすく、丸一日動きっぱなしになることがあります。
8-12ワッチは、朝8時から12時と夜20時から24時の当直です。3つの中では比較的楽で、生活リズムを作りやすい当番です。ただし夜は日付が変わる直前まで仕事になるので、寝るタイミングが遅くなりがちです。
つまり、同じ船に乗っていてもワッチの時間帯で「きつさ」が違います。船員の1日を知りたいなら、船種だけでなくワッチの時間帯まで見ないと実態はつかめません。
工夫といっても特別なことはなく、「寝れるときに寝る」が鉄則です。
休息時間のルール
こちらもCHECK
-



-
船員の労働時間と上限ルール|法律の建前と現場の本音を現役船員が解説
船員の労働時間は1日14時間・週72時間が上限。でも現場では記録の改ざんや細切れ睡眠が常態化しています。法律のルール・労働時間が決まる4つの構造・自分を守る記録の残し方を現役船員が解説します。
続きを見る
甲板部員の航海中の1日
航海中の甲板部員(甲板員・操舵手など)の1日は、ワッチを軸にしたシンプルな生活です。
499tカーゴ・甲板部員の航海中(0-4ワッチの例)
- 00:00 ワッチ開始(船橋で見張り・操舵)
- 04:00 ワッチ終了→朝食→就寝
- 09:00頃 起床→自由時間(ネット・テレビ・読書)
- 12:00 ワッチ開始
- 16:00 ワッチ終了→夕食
- 17:00〜 自由時間→就寝
- 23:30頃 起床→ワッチ準備






























航海中は意外と規則的な生活です。ワッチ以外の時間は基本的に自由で、自室でくつろいだり勉強したりできます。
ただし、デッキ整備(ペンキ塗り・錆打ちなど)がワッチの合間に入ることもあり、完全に自由というわけではありません。
航海士(職員)の航海中の1日
航海士は部員と同じくワッチに入りますが、それに加えて事務作業や航海計画の立案、海図の修正などの仕事があります。
二等航海士(セコンド)であれば海図管理・医薬品管理、一等航海士(チョッサー)であれば甲板部全体の作業計画と安全管理、船長であれば操船の最終責任と入出港指揮が加わります。
ワッチ時間自体は部員と同じですが、ワッチ外の時間に書類仕事が入る分、自由時間は部員より少なくなります。
停泊中の1日(荷役がある日)
荷役日のタイムライン
港に着いたら荷役(荷物の積み下ろし)が始まります。停泊中は航海中とは打って変わって、不規則で体力的にきつい1日になります。
荷役がある日の一例(カーゴ)
- 05:00 起床・入港スタンバイ(ロープ取り等)
- 06:00 着桟完了→荷役開始
- 12:00 昼食(荷役状況に応じて交代で)
- 13:00 荷役再開 or 次の港へ移動
- 17:00 荷役終了 or 出港スタンバイ
- 18:00〜 出港→航海中のワッチ体制に切り替え
荷役の内容は船種によって大きく異なります。タンカーであればポンプとホースを使った液体荷役、カーゴであればクレーンやハッチカバーの操作、コンテナ船であればラッシング(固定)作業が中心です。
荷役中は入出港のたびに係船作業(ロープの投げ・取り・巻き)が発生し、これが甲板部員にとって最も体力を使う仕事です。
スタンバイ時間の「あるある」
入出港の準備を「スタンバイ」と呼びますが、このスタンバイ時間の感覚が陸の常識とはかなりズレています。













































「スタンバイ30分前」と言われたら、実質1時間前には準備完了が暗黙のルールという船も多いです。新人はこの感覚に最初は戸惑いますが、乗っているうちに体が覚えます。
船種で変わる1日の忙しさ
同じ「船乗り」でも、乗る船の種類によって1日の忙しさは天と地ほど違います。
タンカー
タンカーは内航船の中でも最も「動きっぱなし」になりやすい船種です。
油を積んで走って降ろしてまた積みに行く。このサイクルが短い船だと、仮バース(港で休む時間)がほとんど取れません。






























給料が高い分、労働密度も高い。「給料vs自由度」のトレードオフが最も激しい船種です。
カーゴ(貨物船)
カーゴは船の大きさや積み荷によって忙しさが大きく変わります。
大型の鋼材船であれば月3〜5航海で比較的楽、小型の近海カーゴだと入出港が多く忙しくなります。















タンカーと違って荷役を陸側(ステベドア)がやってくれる船種もあるので、その場合は乗組員の負担がかなり軽くなります。
コンテナ船
入出港が多いコンテナ船は、内航の中でも特に過酷と言われています。






























ただし、長距離定期航路のコンテナ船は比較的楽で、辞める人も少ないという声もあります。同じコンテナ船でも航路によって忙しさが全然違います。
フェリー
フェリーは「海の路線バス」のようなもので、ダイヤ通りに港に着いて、乗客と貨物を積んだらすぐ出港します。
他の船種のように仮バースや長時間の荷役、沖アンカー待ちがないのが特徴です。
生活は規則的ですが、入出港が多い短距離航路だとスタンバイの回数が増えて休息時間が削られます。長距離フェリーは航海時間が長い分、ワッチ外の自由時間も比較的確保しやすいです。
セメント船
積み地でセメントを圧送ホースで積み、走って揚げ地でまたホースで降ろす。このループが基本です。
積み荷中は圧送なのでやることが少なく、比較的暇な時間がある一方で、小さいセメント船は飯当番制・夜中の直行揚げ荷もあり、楽とは言い切れません。
忙しさを見極める方法
入社前に船の忙しさを判断するコツがあります。
月間の入出港回数が最も重要な指標です。白油タンカー2000KLクラスは月12〜15航海、5000KLクラスは月7航海、鋼材船は月3〜5航海が目安です。
「FindShip」などのAISアプリを使えば、気になる会社の船の航跡を確認できます。ただし、ただし、船員経験がないとどこを見ればいいか分からないのが正直なところです。見るポイントは3つだけです。
FindShipで忙しい船を見抜く3ステップ
- ①数日ではなく1か月分の動きを見る たまたま忙しい週・暇な週があるので、短期間だけでは判断できません
- ②チェックするたびに違う場所にいるか、走っているかを見る 何度見ても走っていたり違う港にいる船は、入出港が多く忙しい傾向があります。逆にアンカーや停泊が目立つ船は比較的余裕があります
- ③短距離を細かく往復していないかを見る 近場のピストン運航は入出港の回数が増え、スタンバイと荷役で生活が不規則になりやすいです
筆者も転職時に航跡をチェックしていましたが、だいたい想像通りの忙しさでした。ただし、会社によっては入社後に僚船(別の船)へ配属される可能性もあるので、あくまで目安として使ってください。
航跡だけでは荷役体制や仮バースの有無は分かりません。航跡を見てから面接で質問すると、かなり具体的に話を聞けます。















こちらもCHECK
-




-
内航船の船種別きつさランキング|ガット船・RORO船・タンカー・セメント船のリアル
フェリー・タンカー・カーゴ・コンテナ・ガット・RORO・タグボートなど18船種の働き方を比較。乗船サイクル、荷役の負担、仮バースの有無、面接で聞くべき8項目まで、3社経験の現役船員がまとめました。
続きを見る
面接で確認すべき7つの項目
船の1日は、求人票の文面だけではほとんど分かりません。給料より先に「その船がどう動くか」を確認するのが失敗しないコツです。
面接や電話で最低限聞きたいのは、次の7つです。
入社前に確認したい7項目
- 月に何航海くらいあるか → 入出港回数が多いほど生活は不規則
- 当直は3直制か2直制か → 2直だと1回の拘束時間が長くなる
- 荷役は乗組員がどこまでやるか → 陸側荷役が多い船は体力的に楽
- 仮バースや上陸の機会はどれくらいあるか → 仮バースが少ない=休みなく動く
- 乗組員は何人か → 少人数ほど一人あたりの負担が増える
- 司厨が乗っているか → いなければ乗組員が交代で飯を作る
- 船内の電波・Wi-Fi・個室環境はどうか → 自由時間の過ごし方に直結する
同じ「内航船」「甲板部員募集」でも、この答えが違うだけで1日のきつさは別物です。条件より先に、まず生活の形を確認したほうが失敗しにくいです。
こちらもCHECK
-



-
未経験から船員に転職する完全ガイド|求人の探し方から最初の3ヶ月まで
未経験・無資格でも船員にはなれます。年齢別の現実、求人の探し方、面接で確認すべき10項目、最初の3ヶ月の乗り越え方、ブラック船会社の避け方まで、3社転職した現役船員がまとめました。
続きを見る
機関部の1日
機関部(機関士・機関員)はエンジンや発電機、ポンプ類など船の「心臓部」を管理する部門です。
航海中は甲板部と同じくワッチ制で機関室の当直に入ります。ただし最近の内航船はM0(無人化機関室)が多く、航海中は機関室に常駐せず、異常時にアラームで駆けつける体制が一般的です。
停泊中はエンジンの点検・整備がメインの仕事になります。航海中にできない補機の整備、燃料・潤滑油の管理、荷役に使うポンプの操作など、やることは多岐にわたります。
甲板部との大きな違いは、機関室の騒音と暑さです。エンジンが動いている間は耳栓が必須で、夏場の機関室は50度を超えることもあります。















自由時間の過ごし方
航海中のワッチ外や、仮バース中の時間をどう過ごすかは人それぞれです。
航海中の自由時間は、船室での動画鑑賞・ゲーム・読書・筋トレ・海技士試験の勉強などが定番です。電波が入るエリアではSNSやネットサーフィンもできます。
仮バース中は上陸できるので、選択肢がぐっと広がります。






























ただし、仮バースが取れるかどうかは船種と航路次第です。タンカーのように動きっぱなしの船では、上陸する暇もなく次の港へ向かうこともあります。
自由時間の充実度は、船内の電波・Wi-Fi環境にも大きく左右されます。航路によっては電波がほとんど入らないエリアもあるので、事前に確認しておくと安心です。
こちらもCHECK
-



-
船のネット環境ガイド|海上で繋がるSIM・WiFi・Starlinkを比較【2026年版】
海上で繋がるキャリアはドコモとAUが圧倒的に強く、ソフトバンクは沖合で苦戦します。現役船員の体感によるキャリア比較、船内の電波改善テクニック、おすすめSIM・ルーター構成、au Starlink Directの最新情報まで解説しています。
続きを見る
司厨の1日
司厨員(船のコック)の1日は、甲板部・機関部とはまったく異なります。ワッチには入らず、朝昼夜の3食を作るのが仕事です。
朝3時台に起きて朝食の準備を始め、昼食・夕食と作り続けて、片付けと翌日の仕込みが終わるのが夕方。荷役がある日はさらに買い出しが加わり、1日15時間労働になることもあります。
司厨の仕事内容・給料・1日の詳細な流れは別の記事で詳しく解説しています。
こちらもCHECK
-



-
司厨員の仕事内容・給料・きついこと|船の食事事情まるわかり
司厨員は船で3食を作る仕事です。1日の流れ、きついこと、給料相場、食材の仕入れ方から、司厨がいない船の自炊事情・時化の日の食事術まで、元司厨の現役船員が解説します。
続きを見る
まとめ
この記事のポイント
- 船乗りの1日は「航海中」と「停泊中」で大きく異なる
- 航海中はワッチ(4時間交代)を軸にした規則的な生活
- 0-4・4-8・8-12のワッチ時間帯でしんどさが違う。4-8は入出港コンボに注意
- 停泊中は荷役やスタンバイで不規則になりがち
- タンカーは動きっぱなし、カーゴは船によって差が大きい、コンテナは入出港が多くきつい
- 船の忙しさは月間入出港回数で判断できる。FindShipで航跡をチェック
- 面接では給料より先に「その船がどう動くか」を確認するのが鉄則
- 機関部はエンジン管理がメイン。騒音・暑さとの戦い
- 自由時間の充実度は船種・航路・電波環境で天と地の差がある
船乗りの1日は「どの船に乗るか」で決まります。入社前にその船がどれくらい動いているかを調べ、面接で生活の形を確認するだけで、乗ってからの生活の質が大きく変わります。
※この記事は筆者の内航船3社勤務経験、および掲示板・業界関係者からの情報をもとに構成しています。1日の流れは会社・船種・航路・乗組員数により大きく異なります。外航船や大型船はスケジュールが異なるため、そのまま当てはまらない場合があります。就職・転職の際は会社への直接の問い合わせで確認してください。