




この記事では、内航の白油タンカーに実際に乗船していた筆者が、タンカー荷役の具体的な手順と、現場のリアルな労働環境をお伝えします。
「タンカーに乗りたい」「荷役の流れを予習したい」「きついって聞くけど実際どうなの?」という方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
タンカー船の種類と、この記事の対象
タンカーは運ぶ荷物によって白油・黒油・ケミカル・ガスの4種類に分かれます。この記事では、筆者が実際に乗っていた白油タンカーの荷役をメインに解説します。
船種ごとの忙しさ・給料・荷役の違いを比較したい方は、以下の記事をご覧ください。
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白油タンカーが「きつい」と言われる5つの理由
「タンカーはきつい」とよく言われますが、具体的に何がきついのかを整理します。
① 荷役を本船の乗組員がやる
これがタンカー最大の特徴であり、きつさの根本的な原因です。
鋼材やコンテナを運ぶ貨物船では、荷物の積み下ろしは陸上のステベ(港湾作業員)がやってくれます。乗組員は係船作業を終えたら、荷役中は比較的自由です。
一方、タンカーは荷役のすべてを乗組員の手で行います。バルブの開閉、油面の監視、ポンプの操作、陸上との連絡――入港してから出港するまでずっと仕事です。
















② 仮バースがほとんどない
「仮バース」とは、荷役バース以外の岸壁に係留して、仕事がなければ上陸できる時間のこと。貨物船なら荷役中や待機中に上陸してコンビニや銭湯に行けることも多いですが、白油タンカーは危険物を積んでいるため、仮バースが極端に少ないのが現実です。
















筆者も白油タンカーに乗っていた時期は、2〜3ヶ月の乗船期間中に上陸できたのは数回程度でした。コンビニに行けるだけでも「今日はラッキーだな」という感覚です。
③ 睡眠が極端に短くなることがある
白油タンカーは航海が短く、入出港が頻繁です。繁忙期(11月〜3月の灯油シーズン)は特に忙しく、まとまった睡眠が取れない日が続くこともあります。
















これは極端な例ですが、4時間ワッチ+荷役+航海の繰り返しで、まともに寝られない日が数日続くのはタンカーでは珍しくありません。
筆者の場合、忙しい時期は起きている時間がほぼ全部仕事で、睡眠は1日6時間程度。それが3日間続いたこともありました。繁忙期に限った話ではなく、通常期でも短距離航海が連続すれば同じような状況になります。
④ 書類と規制が多い
白油タンカーはガソリンなどの危険物を扱うため、安全管理の規制が他の船種より格段に厳しいです。製油所ごとにルールが違い、荷役前後の書類作成やチェックリストの量も多くなります。
毎航海ごとに3油種以上を積み分けることもあり、タンクの切り替えミスは重大事故に直結するため、緊張感が途切れません。
⑤ タンククリーニングがきつい
油種を変える際にはタンク内の清掃が必要です。ガスフリー作業を行って酸素濃度を測定してからタンク内に入りますが、灯油や軽油を積んだ後のタンクは油が揮発しにくく、ベタベタして目が痛くなるのが本当にきついです。
真夏のタンク内は40度を超えることもあり、体力的にもかなりハードな作業になります。
ただし、同じタンカーでも会社と船によって環境は大きく違います。仮バースが取れる船もあれば、3年間で1回しか取れない船もある。面接時に「直近1年の航海数」「仮バースの頻度」を確認することが重要です。
他の船種との比較は以下の記事で詳しくまとめています。
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白油タンカーの1日の流れ
タンカーの1日は「航海日」と「荷役日」で大きく異なります。
航海日の例(0-4ワッチの場合)
4:00〜7:00 睡眠
7:00〜8:00 朝食・デッキ整備
8:00〜12:00 甲板作業(サビ打ち・ペン塗り等)
12:00〜13:00 昼食・休憩
13:00〜17:00 甲板作業 or 荷役準備
17:00〜18:00 夕食
18:00〜24:00 自由時間+入港スタンバイ
荷役日の例
4:30 荷役ミーティング・安全確認
5:00〜12:00 積荷役(バルブ操作・油面監視・タンク切り替え)
12:00 昼食(交代で短時間)
13:00 離桟・航海開始
14:00〜 デッキ片付け・次港の荷役準備
荷役は2時間で終わることもあれば、12時間以上かかることもあります。大量に積む場合や複数油種を扱う場合は、1日のほとんどをデッキ上で過ごすことになります。
積荷役の手順
白油タンカーの積荷役(荷物を船に積み込む作業)の流れを、実際の手順に沿って解説します。
はじめに、この記事で出てくる荷役用語を簡単にまとめておきます。
荷役で使う用語
レジューサー:マニホールドと陸上アームをつなぐ接続金具。バースごとにサイズが違う
ベルマウス:タンク内の配管の先端部分。油の到着確認や通気確認に使う
ラインアップ:アームからタンクまでの配管バルブを開放して油の通り道をつくること
さらえ:揚荷役の終盤で、タンクに残った油をポンプで送りきる作業
エア押し:荷役完了後、窒素で配管内の残油をタンクに押し込む作業
1. タンクの準備
まず、積み込むタンク内の掃除を行います。前に積んでいた油種と違う場合、異なる油が混ざること(コンタミネーション)を防ぐために入念に清掃します。
タンクに入る前には必ず規定時間のガスフリー作業を行い、酸素濃度を測定します。これを怠ると酸欠で命に関わります。
2. 荷役準備・着桟
荷役バースに着桟する前に、荷役に必要な道具や消火栓の準備、係船索の用意を行います。
荷役バースによって使う係船索の本数・場所、レジューサーのサイズが変わるので、どのバースで何が必要かをメモしておくと作業がスムーズです。
3. ミーティング
陸上の荷役担当者と船員で打ち合わせを行います。積荷のタンク配置、数量、油種の確認を相互で行い、ミーティング後にバルブの閉止確認や空タンクの目視確認を実施します。
4. 陸上アームの接続
陸上のローディングアームと船のマニホールドをレジューサーで接続します。
陸上アームは非常に重く、挟まれると命に関わります。また、アーム内はガスの膨張で圧力がかかっている場合があるため、蓋を外す際は必ずゆっくり圧を抜いてから開けましょう。
接続後、陸上から窒素を送り込み、接続部に洗剤液をかけて泡が出なければ密閉OK。
5. ライン開通(ラインアップ)
アームからタンクまでの船内配管のバルブを開放し、油の通り道をつくります。
ライン配管を覚えていないとバルブの開け間違いで事故に繋がります。新人はまずライン配管図を頭に叩き込むことが最優先です。
6. 通気確認
陸上から窒素圧をかけ、タンク内のベルマウスから勢いよく空気が出る音を確認します。これにより積み先のタンクが正しく開通していることを確認でき、積み間違いを防ぎます。
7. インタンク確認・積み込み開始
陸上から低速で油を送り込み、タンク内に油が到着するのを目視確認します。ベルマウスが油に浸かるまでは静電気の発生リスクがあるため、低速で積み込むのが鉄則です。
全タンクのベルマウスを浸した後、蓋を閉めて規定の流速で本格的に積み込みを開始します。
8. 油面監視・タンク切り替え
積み込み中はデッキ上で油面の監視、係船索の調整、バラスト水の排出などを行います。
タンクが規定量に達したら、無線で連絡を取り合いながら次のタンクに切り替えます。事故防止のため、一発で切り替えず、少しずつバルブを開放して切り替えるのが基本です。
9. エア押し・数量確認・離桟
全タンクに積み終わったら、陸上から窒素を送り込んで配管内に残った油をタンクに押し込みます(エア押し)。
その後、数量を確認して問題なければアームを取り外し、道具を片付けながら離桟。慣れないうちはこの「片付けしながら離桟」がかなり忙しいです。
揚荷役の手順
揚荷役(タンク内の荷物を陸上に揚げる作業)は、積荷役と共通する部分も多いですが、いくつか異なるポイントがあります。
1. ポンプ内残油処理
前回と油種が違う場合、コンタミ防止のためポンプ内の残油を処理します。
2. タンク内検水
荷物に海水や水が混じっていないか確認します。検尺の先に水で色が変わる薬品をつけてタンク内を検査します。
3. 接続・ライン開通
積荷役と同様にアームを接続し、ラインを開通させます。
4. ポンプ操作・揚荷開始
積荷役では陸上から油を送り込みますが、揚荷役では船のポンプを使って油を陸上に送り出します。指定圧力まで回転数を上げ、ゲートバルブを開放して荷役開始。
陸上からの流速指定に応じて、都度ポンプを調整します。
5. さらえ・エア押し
1度に送りきれずにタンク内に残った油を、船首側から順番にポンプで送る作業が「さらえ」です。ポンプの回転数を下げてエア噛みに対応しながら作業します。
さらえ後、ライン内の残油をエア押しして完了。数量確認→アーム取り外し→離桟の流れは積荷役と同じです。
新人が最初に覚えるべき3つのこと
荷役手順はとにかく工程が多く、最初は圧倒されます。でも、1年もやれば嫌でも体が覚えます。
最初の目標として、以下の3つに集中しましょう。
新人が優先的に覚えるべきこと
② 道具の場所:レジューサー、ホース、消火器、係船索。「あれどこ?」と聞くたびに怒鳴られる前に覚える
③ 係船索の準備:バースごとに使う索の本数と場所が違う。メモ必須
言われてもないバルブを勝手に操作するのは絶対にNG。事故に直結するため、わからないことは必ず確認してから動きましょう。
最初の1か月で任される仕事と、まだ触らない仕事
未経験でタンカーに乗った直後は、いきなり荷役の中心を任されるわけではありません。
筆者が初乗船で実際にやった仕事は、歩み(バースと船の間に渡す通路)の設置・撤去、係船索の準備、荷役の補助、デッキの掃除、航海当直、整備作業などです。離接岸作業は最初のうちは見学でした。
逆に、航海当直時の舵は新人にはまだ触らせてもらえません。バルブ操作も、確認なしで勝手に触ることは禁止です。
最初の1か月は「作業の主役になる」より、「流れを止めずに補助できる」「言われた物をすぐ出せる」「危ない場面で余計なことをしない」ほうが評価されます。
筆者は最初のころ、何をしたらいいか分からず先輩のあとをついて回っていたら「ついてくんな」と言われました。タンカーの現場では、聞くべきことは聞いて、あとは自分でメモを見て動く姿勢が求められます。実際、メモ帳に道具の場所・バースごとの係船索・ライン配管をひたすらメモしていたのが一番役に立ちました。
荷役中に本当に危ない場面
荷役手順を覚えることも大事ですが、どこで事故が起きるかを知っておくことはそれ以上に大事です。
筆者が実際に経験した、または現場で見たヒヤリハットを紹介します。
陸上アームは巨大で重く、接続作業中にマニホールドとの間に体が入ると逃げ場がありません。アーム周辺では常に立ち位置を意識する必要があります。
確認なしでバルブを開けようとしてC/O(一等航海士)に怒鳴られた人がいた
自己判断でバルブを操作するのは最も危険な行為のひとつです。油の流路が変わり、コンタミや溢油事故に直結します。
残油処理中に気分が悪くなった
タンク内やポンプ室での作業は、油のガスを吸い込むリスクがあります。体調に異変を感じたらすぐに作業を中断してデッキに出てください。
共通しているのは、慣れてきた頃に勝手な行動をし始めるのが一番危ないということです。新人のうちは「指示を聞いて、確認してから動く」を徹底してください。
タンカーの給料とメリット
ここまで「きつい」面ばかり書きましたが、タンカーは内航の中でも給料が高めに設定されているのが最大のメリットです。
海技免状あり(職員):手取り35万円以上も可能
黒油タンカーは白油より忙しくない傾向で、手取り30万円〜が相場
タンククリーニング手当:1回あたり1万円程度








また、仮バースが少ない分、乗船中にお金を使う機会がほとんどなく、貯金が勝手に貯まるという面もあります。
きつさと給料のバランスをどう考えるかは人それぞれですが、「まず稼ぎたい」「最初にタンカーで経験を積んでから他の船種に移りたい」という人にはタンカーは選択肢として十分アリです。
給料の詳しい相場は以下の記事で船種別にまとめています。
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まとめ:タンカーの荷役はきついが、やれば覚えられる
白油タンカーの荷役は手順が多く、体力的にもきつい仕事です。でも、物覚えが良くなくても、1年やれば確実に覚えられます。
この記事のポイント
仮バースが少なく上陸の機会が極端に限られる
睡眠不足になりやすい(特に繁忙期)
その分、給料は高めで貯金もしやすい
新人はまず「ライン配管」「道具の場所」「係船索」を覚えることに集中
タンカーに乗るかどうか迷っている方は、船種ごとの違いや、面接で確認すべきポイントもあわせてチェックしてみてください。
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