この記事はこんな方におすすめ
- 「船員法が改正されたって聞いたけど、何が変わるの?」
- 「求人の嘘がなくなるって本当?」
- 「手帳のデジタル化って何が変わるの?」
船員法が変わった。で、俺たちの何が変わるの?


2025年5月に「船員法等の一部を改正する法律」が公布され、2026年2月から段階的に施行されています。
改正の柱は大きく3つです。
①船員不足への対応:求人情報の嘘を禁止+快適な船内環境を作る努力義務
②国際規制への対応:安全訓練(STCW基本訓練)を全船員に義務化
③デジタル化:船員手帳の電子化で、紙の手帳に頼らない証明方法を整備
この記事では、法律の条文解説ではなく「現役船員にとって何が変わるのか」「自分の武器としてどう使えるのか」にフォーカスして解説します。
【改正①】求人情報の「的確な表示」が義務化された


今回の改正で、船員職業安定法も併せて改正されました。船員の求人情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示が明確に禁止されています。
対象は船員職業紹介事業者だけではありません。「募集情報を取り扱う者」全般が規制対象です。
では、これまでの現場はどうだったか。




こういった「手取りの定義をずらす」「条件を曖昧にする」手口が日常的に横行してきたのが、この業界の現実です。
法改正で「的確表示の義務化」が入ったこと自体は前進です。ただし、グレーゾーンをどこまで取り締まれるかは未知数です。「月収30万」と書いて実際は住民税込み28万だった、みたいなケースを行政がどこまで監視できるのか。
船員ができること:この改正を「武器」として知っておくことです。面接や入社前の段階で「船員法改正で求人の的確表示が義務化されましたが、この求人票の条件に相違ありませんか?」と聞くだけで、会社へのかなりの牽制になります。
【改正②】「快適な船内環境」が努力義務に…でも努力義務って何?


改正船員法では、国が策定するガイドラインに基づき、船舶所有者に以下の努力義務が課されました。
・船内作業方法の改善(係船の自動化など)
・船員室の充実化
・船内での通信環境の改善(=WiFi)
・疲労回復施設の整備
ここで重要なのは「努力義務」という言葉の意味です。
努力義務=やらなくても法律違反にならない。罰則はありません。極端に言えば「お気持ち表明」に近い。
そもそも、2022年の働き方改革で「労働時間の把握」が義務化されましたが、現場はどうなったか。



義務化された「労働時間把握」ですらこの有様です。努力義務の「快適環境」がどこまで浸透するかは、正直なところ期待しすぎない方がいい。
ただし、会社選びの判断材料としては使えます。面接で「船員法改正で船内の通信環境整備が努力義務になりましたが、御社のWiFi環境を教えてください」と聞けば、会社の姿勢が見えます。まともな会社なら具体的に答えるし、ごまかす会社はそういう会社です。
【改正③】安全訓練(STCW基本訓練)が全船員に義務化


2026年2月14日から、船員法の対象となるすべての船員に「基本訓練」が義務化されました。
訓練は4種類です。
①生存訓練:救命胴衣の着用、高所からの飛び込み、救命いかだの復正など
②消火訓練:呼吸具の着用、消火器による火災消火など
③応急訓練:けがや疾病に対する応急処置
④安全社会訓練:非常時の手段、海洋汚染防止、船内コミュニケーション
このうち①生存と②消火は実技講習が必要で、5年ごとに能力維持証明を更新しなければなりません。雇入届出の際に修了証の提示も求められるようになりました。
法律として明確化されたこと自体は良いことです。ただし現場目線で言うと、「いつ」「どこで」「誰の金で」受けるのかが問題です。大手なら会社が手配してくれますが、小さい船会社ほど「そんなの知らん」で放置する可能性がある。
筆者自身、レーダー観測者講習の1年以上後にARPA講習を受けた経験がありますが、作図(プロッティング)を完全に忘れていて苦労しました。訓練を「受けた」と「できる」は別物です。義務化と同時に、訓練の質を維持する仕組みが機能するかどうかがカギになります。
未経験でこれから船員を目指す方にとっては、入社前に安全教育をちゃんとやってくれる会社かどうかの判断基準として使えます。「基本訓練はどのタイミングで受講させてもらえますか?」と聞いてみてください。
【改正④】船員手帳のデジタル化──ブラック対策になるか?


改正では、船員手帳への記載・証印によらない乗船履歴の証明方法が整備されました。最終的には2037年の完全オンライン移行を目指す長期計画です。
「手帳のデジタル化」と聞いてもピンとこないかもしれません。しかし、これはブラック対策として地味に最も効く可能性がある改正です。
なぜか。この業界には「下船中に船員手帳を会社が預かる」という違法行為が横行しているからです。



船員法50条2項には「船長は、海員の乗船中その船員手帳を保管しなければならない」と書いてあります。つまり、下船中に会社が手帳を保管するのは法的根拠がありません。しかし現実には「預かっておくよ」の一言で手帳を取り上げ、辞めさせないようにする会社が存在します。特に四国・九州に多いとの声もあります。
手帳がデジタル化されれば、物理的に「取り上げる」ことができなくなります。これは船員の退職の自由を守る上で、大きな一歩です。
ただし、完全移行は2037年。それまでは紙とデジタルの併用期間です。
今すぐ手帳を返してもらえない人へ:「免状の書き換えに行くので返してください」と言えば、返さざるを得ません。船員法50条2項の存在を知っているだけで、自分を守る武器になります。
まとめ:法律が変わっても、使わなければ意味がない


この記事のポイント
- 求人の的確表示が義務化 → 入社前の確認で「武器」になる
- 快適環境は努力義務止まり → 会社選びの判断材料として使う
- 安全訓練の義務化 → 会社の姿勢を見極める質問に使える
- 手帳デジタル化 → ブラック対策の本命(ただし完全移行は2037年)
- 法律を知っている船員が増えること自体が、業界を変える一番の近道
法律が変わっただけでは何も変わりません。でも、法律の中身を知って、面接で聞く・退職時に使う・おかしいと思ったら根拠を持って声を上げる。その積み重ねが、この業界を少しずつ変えていくんだと思います。
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※この記事は筆者の3社勤務経験、および掲示板・業界関係者からの情報をもとに構成しています。法改正の詳細は国土交通省の公式資料をご確認ください。制度の運用は今後変更される可能性があります。